識学(しきがく)という考え方
さて、皆さんは、「識学」という考え方を聞いたことがあるでしょうか?
人事やマネジメント領域に興味・関心をお持ちの経営者、人事の方は、どこかで
一度聞いたことがあるかもしれませんね。
最近では、識学式の人事評価制度を導入する企業も増えてきました。
識学のことを知らない方のために、まず考え方を下記にまとめておきます。
■ 識学のマネジメントの基本思想
1.「認識のズレ」を排除する
組織内において起こるトラブルや非効率は、「上司と部下」「会社と社員」の間
での“認識のズレ”に起因していると捉える。例えば、「がんばった」「努力した」
「一生懸命やっている」などの曖昧な言葉がズレの原因とされ、数値・ルール
による管理が重視される。
2.「結果」で評価し、「過程」は評価しない
評価は基本的に「結果=数字・達成・成果」で行う。努力やプロセスは評価
対象にしない(=評価する際の主観や贔屓を排除)。
たとえば、営業職なら「受注件数」「売上高」、製造なら「不良率」「納期遵守率」
などが評価対象。
3.「上司=絶対的な存在」
上司は組織のルールを体現する存在として、常に「ルール>感情・人間関係」
という姿勢を保つべきとされる。上司が部下に対して「好かれる」必要はない。
むしろ「嫌われる勇気」を持って、厳しくルールを守らせることが推奨される。
■ 識学における人事評価
1.曖昧さの排除:定量評価の徹底
評価は「点数」「達成率」「ランク」など、定量的に測定できる項目で構成される。
「態度がいい」「真面目」などの主観が入る評価項目は排除されがち。
2.行動評価よりも「成果評価」
行動やプロセスより、最終的な成果を重視。評価項目は基本的に成果指標に連動
して設計される。
例:
×「協調性を持ってチームで行動できた」
○「月次売上目標を達成した回数」
3.評価制度は「ルール」であり「例外」を作らない
一人でも例外を認めると、組織内に「ルールを守らなくてよい理由」が蔓延すると考える。
そのため、誰に対しても同じルール、同じ評価基準が適用されるべきという思想。
人事マネジメント、人事評価には、正解がありません。
色々な考え方があって良いので、良し悪しは一概には言えません。
究極的には、社長や経営者が「どんな会社にしたいのか?」に尽きるのであり、
識学のような会社を作りたい社長は識学を導入するべきですし、そうでない
場合には導入しなければいいだけの話です。
ですが、注意して頂きたいのは、
「識学の考え方を取り入れながらも、1on1など社員のエンゲージメントを
高めるための施策を導入するように、識学を部分的に使う場合」です。
良くあるのは、管理職に対して識学の研修を受けさせて「識学の役割責任を
徹底しろ」と言っておきながら、人事評価では行動や取り組み姿勢も評価し、
「部下とは1対1で深く面談して信頼関係を作れ」「生産性を上げるために
職場の心理的安全性を重視しろ」と指示するような場合です。
こうなると、上司としては「結局どっちなんだ」と混乱し、部下から見ると
「上司を信頼していいのか怖い存在なのか分からない」となり、上司が情に
流されてルール運用が甘くなるなど、機能不全に陥ります。
このような中途半端が一番危険です。
「心理的安全性」「エンゲージメント」「1on1」「識学」、などいずれも人事
界隈では流行したキーワードですが、私の感覚(経験則)で恐縮ですが、
このような中途半端な識学の導入は、流行りに乗っかる新しもの好きの経営者
にありがちなパターンですので、ご注意下さい。
なお、最近、識学式人事評価を導入している会社の管理職の方に識学のメリット
やデメリットをヒアリングする機会がありましたので、下記に共有します。
あくまでもお一人に聞いただけですので、ご参考まで。
【識学のメリット】
・マネジメントが超楽になる
モチベーションなんて言葉はない。部下の低くてもやる気がなくても一切関係ない。
数字を上げればそれでよい。上司は部下に寄り添わなくても良い。
部下が上司に必要に応じて働きかけ、それに対して上司はアドバイスをすれば良いだけ。
・売り上げが上がる
それでしか評価されないので、社員全員がひたすら売り上げを上げるために行動する。
会社全体での売り上げや新規開拓件数が右肩上がりで伸びている。
【識学のデメリット】
・離職者が増える
上司は部下とご飯に行っていはいけない。その結果、同僚同士で飲食する
ようになる。誰か一人が愚痴や不満を漏らして、転職したいと言い出すと、
安易に同調して離職者増につながることがある。
・数字しか評価しないので、人との繋がりやチームワークが希薄になる
他の部署の人手が空いていても、自部門の数字のみで評価されるので、
絶対に仕事を回さなくなる。
・クオリティが下がる
とにかく数字しか評価されないので、例え自社の提供するサービスのレベル
が下がる恐れがあろうと、どんどん受注してしまう。
・人格が備わっていなくても昇格昇進してしまう
人間的な魅力が無くても数字さえ良ければ昇格していってしまう。
冷酷な管理職が増えていく。その結果、社風はどんどん冷たくなっていく。
・どんどん会社がドライになっていく
人と人との関りがどんどん希薄になっていく。和気あいあい、雰囲気の良い
会社にしたいのであれば、絶対やめていた方が良い。
・管理部門への導入は困難
営業だけが識学を導入して、総務などの管理部門は導入せず。
結果として、社内に二つの制度が併存することになった(管理部門は評価制度
を導入せず、社長のペン舐め査定で昇給)。
そして、社内の雰囲気は営業部門と管理部門で全く違う。結果として、一体感はない。
・社内への浸透が難しい
識学は、特殊な考え方、特別な言葉を使う。一種の思想、宗教のようなもの。
識学の講師から直接指導を受けていたメンバー達は理解していても、新しく入って
きた社員には浸透しにくい。ずっと識学を使い続けるには費用がかなりかかるし、
社内に認定講師を作り根付かせるいう仕組みもあるが、外部の講師と同じレベル
で浸透させるのは困難。