ジョブクラフティング~その2~
前回の続きです。
ジョブクラフティングは、社員一人ひとりが、仕事に対する認知や行動、人間関係を自ら主体的に修正していくことで、“やらされ感”のある仕事を“やりがいのある仕事”へと変容させる手法のことです。
前回のブログでは、ジョブクラフティングの研修やワークショップは、費用や時間がそれほどかからないというメリットがあるものの、デメリットもあるということを指摘しました。
では、そのデメリットとは何か?
それは、「研修後、時の経過に伴い、効果が薄れていく」という点です。
研修直後は、下記のような考えに至ります。
「自分の仕事は、●●という形で、社会に貢献しているんだ。単なる作業じゃない!」(認知)
「これからは、自組織だけじゃなく、隣の部署とも積極的に関わっていこう!」(人間関係)
「自分の得意なデザインのスキルを活かして、綺麗な営業のプレゼン資料作成に役立てよう!」(仕事)
ここまでは良いのですが、難しいのは、実際に現場に戻ってからです。
まず、認知的なクラフティングに関しては、仕事に関する新しい意義を見出したとしても、その熱い気持ちをすぐに忘れてしまう方もいらっしゃいます。また、仕事内容の微修正や人間関係を変えるということは、新たなチャレンジが必要となります。思い切って仕事の微修正や人間関係を変えても、しばらくするとすぐに慣れてしまいます。
そのため、フォローなどを定期的に入れる場合もありますが、永遠にフォロー研修を実施することは困難です。
最終的には、社員一人一人が会社に言われなくても、セルフで「ジョブクラフティング」が出来るような状態にならないと、期待していたような効果は得られないかもしれません。
そこで、この研修やワークショップによるジョブクラフティングのデメリットを解消できる取り組みを紹介したいと思います。それは、事業活動を通じたジョブクラフティングです。
実際の現場での仕事を通じながら、社員に自然とジョブクラフティングができるような状態を作るのです。
イメージが湧かないと思いますので、例をご紹介します。
株式会社協和というランドセルメーカーです。
この会社では通常のランドセル以外に、障がい児向けに「ユーランドセル」というブランドを作り、一つ一つ手作りのランドセルを障がいを持つ子供達に届けているのです。
障がいの状態に応じて一つずつ作られるので、工費は通常の数倍はかかっているにもかかわらず、価格は普通のランドセルと同じです。ですから、事業としては赤字です。
では、なぜそのような事業を継続するのか?それに対して同社の若松氏は、こう答えています。
「お金には代えられない仕事のやりがいを、社員たちにもたらしてくれているからですよ。わずかな赤字など、たいしたことではありません。それで十分元手がとれてしまうのですから」(「日本で一番大切にしたい会社4」より引用)。
この事業は、意図していないと思いますが、ジョブクラフティングの3つの視点に沿って、社員の仕事や人間関係や認知を変化させるものとなっています。
①作業クラフティング
例えば、両腕がない等、子供の障がいの状態に応じて、その子のためだけに、材料から裁断、縫製を吟味し、職人が全てを手作りで作り上げます。そのため、普段の仕事とは全く異なる作業が発生します。
②人間関係クラフティング
職人や営業担当は、通常のランドセルの製作・販売業務では接点のなり、障がい児、及び、その親との接点を持ち、新たな人間関係を築きます。また、オーダーメイド型の商品なので、お客様の要望をヒアリングする営業と実際に製作する職人のコミュニケーションも密になり、人間関係がより強固になるでしょう。
③認知クラフティング
ランドセルは、単なる「入れ物」ではなく、子や親の特別な思いが込められています。
特に障がいを持つ子供や親にとっては、皆が背負っているランドセルを同じように背負うことは、憧れであり希望なのです。そのような「夢や希望が詰まったカバン」を作るのことが仕事であるとうことを再認識することができます。
最近は少子化であるにもかかわらず単価が上がり市場が拡大しているマーケットですが、最盛期には400社近くあったランドセルメーカーが、現在では1/10まで減っている競争の厳しい業界です。
そのような環境で、協和がランドセルの業界トップクラスメーカーとして支持され続けている理由は、ここにあるのかもしれません。