入社後5年は毎年10万円支給 ~逆転の「勤続表彰」で早期離職を防ぐ報酬の工夫~
当社では人事評価制度や賃金制度の設計を専門としておりますが、
先日あるクライアント企業様の報酬制度を見直す中で、非常にユニークで
実践的な仕組みを作りました。
それが、
「入社後5年間は、毎年勤続表彰として1年経過ごとに10万円を支給する」
という制度です。
今回は、この逆転の発想による報酬設計の背景と、中小企業が若手人材の
早期離職を防ぐための工夫についてお話しします。
■ 「長く働いた人」ではなく「入社間もない人」を祝う
「勤続表彰」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?
一般的な企業の制度では、「勤続10年」「勤続20年」といった節目で特別休暇
やまとまった報奨金を支給するなど、長年会社に貢献してくれたベテラン社員
を労うものが大半です。
しかし、今回導入したのはその真逆です。
入社してから日が浅い若手社員に対して、会社から毎年こうメッセージを
届ける仕組みにしました。
「入社して無事に1年(2年)経ったね。
頑張ってくれて本当にありがとう、おめでとう!」
この制度を新設した最大の理由は、「若年層の早期離職」を防ぐためです。
採用した社員が1~2年働き、ようやく会社や業務の全体像に慣れて
「さあ、いよいよこれから成果を出して花開くぞ!」という肝心なタイミング
で退職してしまう……。
中小企業の経営者であれば、一度は味わったことのある悔しい経験ではない
でしょうか。
■ 早期離職による損失は「607万円」に達する
早期離職の打撃は、単に「人が1人減った」という寂しさだけでは済みません。
2026年7月の日本経済新聞の記事によると、中途採用した社員が6カ月以内で
早期離職した場合の企業の損失額は、平均で約607万円(在籍費用340万円、
採用費用197万円など)に達するという調査データが報じられ、大きな話題となりました。
もちろん、この数字は大企業の高額な人材紹介手数料なども含まれた平均値ですので、
すべての中小企業にそのまま当てはまるわけではありません。
しかし、空前の売り手市場において採用費が高騰している今、
以下のコストを冷静に計算してみる必要があります。
・求人広告費やエージェント利用などの「直接的な採用費用」
・受入れ準備や現場でのOJT・教育に費やした「先輩・上司の工数コスト」
・「また辞めてしまった……」と既存社員が受ける「心理的ストレスや職場の疲弊」
これらを総合的に比較考量したとき、「5年間で合計50万円(年10万円×5回)
を支給して、大切な人材が5年間しっかりと定着してくれるのであれば、
投資として極めて安い」という明快な経営判断に至ったのです。
■ 「基本給」ではなく「表彰金」にする賢い設計
この制度のポイントは、「基本給のベースアップ」ではなく、あえて
「勤続表彰金」として支給している点にあります。
基本給を毎年無条件で上げてしまうと、業績や本人の能力にかかわらず将来
にわたって固定人件費が膨らみ続けます。
しかし、この制度であれば「入社後5年間限定」の表彰金であるため、
6年目以降の支払いは発生しません。
会社側としては、「業務と環境に慣れるまでの最初の5年間は会社が手厚く応援する。
6年目以降は会社の中核として、自分のスキルと成果で評価を勝ち取り、
自力で報酬を上げていってほしい」という明確な想いが込められています。
実際に、中途入社した若手社員にこの制度の感想を聞いてみたところ、
大変嬉しい反応が返ってきました。
「人事評価による昇給とは別に、最初の5年間は確実に毎年約1万円ずつ月給
が上げてくれるようなものですよね。
すごくありがたいですし、大切にされている実感があります!」
社員の受け止めとしても非常に上々で、モチベーション向上と安心感に直結しています。
■ 基準を整え、手当で「自社らしさ」を出す
人手不足が深刻化する今の時代、知名度や採用力で劣る中小企業が「他社と
同じような平均的な給与テーブル」を敷いているだけでは、良い人材の採用も
定着も勝ち取れません。
まずは、同地域・同業種の水準と照らし合わせながら自社の給与・賞与の土台
を整え、人事評価制度によって「何を頑張れば給与が上がるのか」
という明確な基準を示すことが大前提です。
その上で、今回ご紹介した勤続表彰のように、自社の課題(定着率、資格取得、
子育て支援など)に合わせたオリジナルの手当や仕組みを柔軟に工夫していくこと。
これこそが、大手に負けない魅力的な組織づくりへの近道です。
「うちの会社でも、若手の定着につながるユニークな手当は作れないだろうか?」
と思われた企業様は、ぜひ一度、自社の報酬体系を新しい視点で見直してみて
はいかがでしょうか。


