「去る人」と「残る人」の組織心理

3月下旬を迎え、街のあちこちで桜の便りが聞かれる季節になりました。
出会いと別れの季節でもあるこの時期、多くの企業様で避けて通れないのが
社員の退職や異動」です。

大切な社員が会社を去る時、経営者や残された社員の心には、少なからず
寂しさや動揺が生じるものです。

今回は、コンサルティングの現場で実際にあった2つの対照的な事例を通じて、
去りゆく人への適切な対応(アルムナイの視点)と、残された社員の
モチベーションを守るための組織ケアについて考えてみます。

■ 「辞めた社員はどうでもいい」は昭和の考え方
●まずお伝えしたいのが、「去る人」との関係性についてです。

大企業に限らず、今や中小企業においても退職者が別の企業を経て自社に
戻ってくる「出戻り社員(アルムナイ)」は決して珍しくありません。
中には、大幅な年収アップを提示されて大手に転職したものの、
「やっぱり前職の環境の方が自分らしく働けた」と、
中小企業に戻りたいと希望するケースもあるのです。

かつては「一度辞めた社員は裏切り者」「辞めた人間はどうでもいい」といった
風潮もありましたが、それは昭和の古い考え方です。
空前の人手不足である令和の今、目指すべきは「出戻りウェルカム!」の姿勢です。

 ●戻ってきてもらいたい社員とは、喧嘩別れしない 。
退職の瞬間まで良好な関係を築き、応援して送り出すことが重要です。
自社のカルチャーや仕事内容を熟知した上で、他社で新しい経験を積んでレベル
アップし、その上で「やっぱりこの会社が良い」と戻ってきてくれる人材は、
間違いなく即戦力として高く活躍してくれます。

残された社員の動揺を抑えた「社長の見事な危機対応」
一方で、退職の理由や経緯によっては、社内に大きな「ざわつき」が生まれる
こともあります。先日、あるクライアント企業(A社)で起きた事例をご紹介します。

A社の重要な協力会社であるB社の幹部が、あろうことかA社の若手社員を引き
抜いてしまったのです。 これを知ったA社の社内は、不信感と動揺に包まれました。
「あそこは協力会社なのに…」「次も誰かが標的になるのか…」と、
残された社員の心理的安全性は一気に脅かされます。

この危機に対して、A社の社長が取った行動は見事でした。
社長はすぐさま事実関係を整理し、今後の対策を決定。
速やかに協力会社と社内に対して以下の内容を通知(情報開示)し、事態を早期に収めました。

  • ① 事件の経緯
     何が起きたのかを隠さず説明

  • ② B社社長よりA社社長に丁重な謝罪があったこと
     両社トップ間で問題が認識されていることを明示

  • ③ 今後の取引についての期間限定のペナルティ
     毅然とした態度を社内外に示す)

  • ④ 今後の対応マニュアルの策定
     今後、もし別の協力会社から打診があった際の相談窓口の設置など、
    社員を守る仕組みを提示

もしここで、社長が事実を隠蔽したり、対応を後回しにしていれば、不信感から
社内の雰囲気が悪化し、さらに離職者が出るなどの事態が生じたかもしれません。
迅速に経緯を説明し、会社として社員を守る姿勢を示したからこそ、社内の動揺
は最小限で収まったのです。

■ 去る人にも、残る人にも、誠実であること
年度末の組織の揺らぎは、経営者の「組織に対する姿勢」が最も試される瞬間
でもあります。

去りゆく人には感謝を込めてエールを送り(未来の資産にする)、残る人には
徹底的な誠実さと迅速な発信で安心感を与える。

この両輪が揃うことで、社員が安心して長く働ける、そして一度離れても戻りたくなる
「Well-beingな組織」の土台が作られていきます。

新年度を迎えるにあたり、自社の組織ケアのあり方を今一度見直してみてはいかがでしょうか。