スバル/働きがい調査

先週の日経新聞で、スバルの働きがい調査の取り組みが紹介されていました。

スバルが働きがい改善に取り組むのは、従来の目標管理型マネジメントでは、十分な成果が出ないと感じているためだそうです。そのため、昨年、ディーラーごとに提示していた販売目標を廃止成果からプロセス重視へ人事評価制度の転換を進めているとのこと。

ちなみに、スバルの取り組み概要は下記の通りです。

・仕事や組織への愛着心「エンゲージメント」に関するオンラインアンケートを開始
・対象は、国内販売店の大半の約500店舗
約130の質問に対して5段階で回答
・結果は店舗ごとに集計
・データは従業員から同意を得た上で匿名化して活用する。
・調査と合わせて店長など管理職を対象に研修を実施(まずエンゲージメントがなぜ重要なのかを教える)
・研修では会社の方針や取り組みを理解してもらい、組織の連帯感や働きがいを高める具体的な施策を探る
・エンゲージメントを向上するには全員が課題に向き合って議論することが重要という。
・車の販売店ではめずらしい完全週休2日制を導入する店舗が出てくるなど職場改革が進み、5月に実施した調査では9割の販売店が半年前と比べて働きがいが改善した。

さて、上記には、組織診断の実施&活用のポイントが凝縮されています。スバルでの取り組みは全てをそのまま参考にして欲しいくらい秀逸だと思いますが、今回は2点だけ(赤字にした部分)補足させていただきます。

1. 研修(=啓蒙活動)の重要性
組織診断を実施する際に、特に研修などを実施せずにいきなり実施する場合もあります。しかし、何の研修もなく、いきなり組織診断を実施すると、「忙しい中、何でこんな面倒くさいことやらなきゃいけないんだ」と社員の反発を生みますし、そのネガティブな感情が診断結果にも表れます。また、回答率が低くなることもあります。このような調査では、本音を知るために、ほとんどのケースでは、匿名で実施することが多いので、ばれなければやらなくても良い、という発想に陥る社員も少なからず出てくる可能性があります。そこで、「何のためにやるのか?」、その理由を管理職(管理職を通じてスタッフへ)に浸透させる研修を実施する必要があります。いわゆる、導入研修です。エンゲージメント(or well-being)の定義・概要、注目されている背景、向上させた場合の効果、測定方法、向上方法などについて、必要となる知識をインストールする必要があります。

2. 全員で課題に向き合って議論する
「組織診断実施後、どうするか?」については、企業によって大きく下記の3パターンとなります。

(1)何もしない
実は、「何もしない」という企業は、結構多いです。ただ、大変残念ながら、当たり前ですが、組織診断をしているだけでは、エンゲージメント向上、ないし、well-being向上の効果は出ません。これらのアンケートは、組織の健康診断のようなものです。診断の結果を見て、具体的な行動に移すことが必要です。何も行動に移さない場合、社員側からすると「アンケートに本音で応えても、何も変わらないじゃないか。」との想いが徐々に募り、プロジェクトが頓挫する可能性があります。

(2)TOPダウンで施策を展開する
診断結果に基づき、何をすべきかを会社側(経営サイド、人事部)で考え実行するパターンがあります。これは、重要です。経営者、人事部でなければ、改善出来ないことは多々あります。それこそ、スバルの例でいえば、「販売目標をなくし、結果重視からプロセス重視に変更」は、経営サイドでなければ実現不可能です。社員の声を会社がしっかりと受け止め、それを行動に移していく。このサイクルがあればこそ、社員の皆様も会社を良くするために本音で意見をくださるようになります。
しかしながら、これだけでは万全とは言えません。これだけですと、どうしても受け身になってしまいます。「何かをいえば、会社がやってくれる」という思いは、「期待」といえば聞こえは良いですが、ネガティブに捉えると「甘え」に繋がってしまいます。そこで、(2)とセットで導入して頂きたいのが、下記の(3)です。

(3)社員同士で話し合う
部門ごとに組織診断の結果を元に、自分たちの部署はどうしていきたいか?何をするか?を自分で考えて自分で行動させるということが、非常に重要だと思います。中間管理職に対する研修を実施の上、管理職はメンバーたちにエンゲージメント(or well-being)の意義を伝え、それを踏まえ自分たちのチームの行動計画を自分で考え、自分で行動する仕組みの導入がおすすめです。組織診断の結果は、年に1~2回OPENにし、自分たちの施策の結果どうなったのかをスコアで定量化し、それを踏まえ、再度計画立案をします。このような自家発電式エンゲージメント(or well-being)向上のサイクルを作るのです。これにより、自分たちの職場は自分たちで良くしていくという意識が芽生えますし、チームでディスカッションすることにより、最近話題の心理的安全性も高まります。

是非、参考にして頂ければ幸いです。

※補足
以前、某有名なエンゲージメントサーベイ企業のクラウドサービスを活用し、しかも、その企業の社長から直にコンサルティングを受けたことがあるという会社の管理職の方からの体験談を共有させて頂きます。その企業では、部門ごとにエンゲージメントサーベイの結果を出し、その都度、中間管理職がコンサルから直接アドバイスを受けていたとのこと。コンサル会社の社長がクライアントの中間管理職に直々アドバイスをするという有り難い話ではありますが、残念ながら、中間管理職の立場からすると、あまり効果を実感しなかったそうです。それはなぜかというと、コンサルからのアドバイスないし関わり合い方が、ただ詰められているだけという印象しか無く、管理職達がエンゲージメントサーベイに恐怖感すら抱いてくるようになったためだそうです。そのような意識は、当然部下たちにも伝わりますし、結果として、ポジティブにチームを変えていこうという行動に繋がらなかったようです。
また、同じような話では、某大手企業の話ではあります。社内のエンゲージメント調査が原因で、管理職が鬱になるケースもあったとのこと。部門ごとにスコアを出すことで、エンゲージメントの引く部門、逆にそうでない部門が明白になります。その一因は管理職にあることもありますが、その全ての原因が管理職にあるとは言い切れません。このような調査をする際には、「全責任を管理職に押し付けない」というスタンスも重要だと思います。