「何となく」で採用&昇進
昨日、勉強会にて、社員を幸せする経営を実践している超有名企業「伊那食品工業」塚越社長の講演を聞きました。
同社のことは多様なメディアや書籍を通じて多少なりとも存じ上げておりましたが、社長直々のお話をお聞きすることは初めてでしたので、新鮮な気づきが幾つもありました。
備忘録を兼ねて、塚越社長のお話で特に印象に残ったことを書き記し、まとめておきます。
①年輪経営や年功序列が絶対的に良いというわけではない=どういう会社にしたいのかが重要
伊那食品工業社は、中長期経営計画がなく、営業にはノルマがなく、また、業績の良し悪しに関わらず、給与や賞与は変わらず、年功序列で昇給していくことで有名です。社員の幸せ(昇給は幸せに繋がる)が目的だからです。
ですが、塚越社長は、「若い人達が切磋琢磨するような会社にしたければ、成果主義が良い」「どういう会社にしたいのかが重要」という趣旨の発言をされていました。要するに、同社は年輪経営という、去年よりも少し成長するという経営スタイルを実践したいので、年功序列という人事制度を取っているに過ぎず、目指したい企業像が異なれば、当然、制度も変えなければならないということですね。
この点については、私も深く共感致します。絶対的に正しい制度はなく、それぞれの経営者が描く理想の会社像に近づくためには、どうしたらいいのかを考え、その理想に近づくような制度を構築し、文化を醸成するべきです。
②社員はせかせかしていないが、経営スピードは速い
同社は目標がなく、社員に自由にやらせているので、どうしてもスピードが遅くなるのでは?という疑問が生じますが、決してそうではないようです。自由にやらせている分、社員の方々が直属の上司を飛び越えて、社長に直々に提案するようなことは日常茶飯事で、それを踏まえ、翌日には実行に移すことがしばしばあるようです。そのため、経営スピードは極めて速くなるようです。
③上司の役割責任=部下の生活に気を配ること
普通の会社では、上司の役割や責任は、組織の目標達成、部下の指導育成など、それぞれの役職や等級に役割や責任が伴います。では、そもそも目標がない伊那食品工業では、上司の役割は何なのか?気になるところですが、結論としては「部下の生活に気を配ること」だそうです。さすが、大家族経営主義を実践されているだけありますね。部下を家族のように思いやり、サポートすることが上司の務めとは恐れ入りました。
④評価・抜擢・採用は「何となく」で
昨日の講演で一番インパクトに残ったキーワードは、「何となく」です。同社でも抜擢がないわけではないようですが、明確な理由や基準があるわけではなく、「何となく」抜擢しているそうです。同様に評価も「何となく」しているとのこと。結果的に、塚越社長曰く「非常に曖昧で横並びとなる」ようですが、それでいいと思っているそうです。また、採用に関しては、以前は色んな人がきて選びやすかったそうですが、最近は同社の社員を幸せにする経営スタイルが有名になりすぎたせいか、同社のことを良く知り、そのような環境で働きたいという人ばかりが応募されるようです。新卒20名の募集に1,200人もの応募があると言われる同社ですが、ではどうやって採用を決定しているのかというと「何となく」だそうです。面接で聞いてもわからないし、採用基準はあるようでないとも仰っていました。このような「何となく」という「第六感が一番正しいような気がする」とのことです。
⑤理念を伝える秘訣〈1〉=皆でやる
同社の塚越会長が執筆された「年輪経営」は、元々社員に読んでもらうために執筆したものだそうです。ですから、同書籍は全社員に配り、読んでもらっているのですが、それだけでは大切な価値観や理念は伝わらない。重要なことは、とにかく色々なことを「皆でやる」ことだそうです。かんてんぱぱ祭、朝掃除、社員旅行、朝礼、月例会など、多様な行事を社員全員でやることにより、役職や年齢などの上下関係よりも横の関係が増えていき、結果として理念や考え方が伝わりやすくなるのだそうです。また、社員旅行でも行き先と宿泊先と皆で一回食事するということは決めるけど、600人の社員で行き先は15か所に分かれてバラバラ、プランは一切決まっていないので、自分たちで考える訓練が自然と出来るのだそうです。
⑥理念を伝える秘訣〈2〉=経営者と社員との間に信頼関係がある
色々な会社が素晴らしい理念を掲げているが、重要なのは、言っていることとやっていることが同じであるということ。「社員の幸せを重視」とか「社員の物心両面の幸せを追求」という素晴らしい理念があったとしても、経営者が売り上げや利益重視の姿勢を貫いていれば、意味がない。それは嘘をついているのと一緒。社員はそれをすぐに見抜いてしまうとのことでした。本当に仰る通りだと思います。
⑦社長が楽しむ!
塚越社長が転職してきた際には、同社のことを「古い」「こんなにいい加減で良いのか?」と感じていらっしゃったようです。しかし、楽だし楽しいので、馴染んできたとのこと。現在では、こういう経営をしている社長である自分自身が一番楽しいと感じるようになり、それを受けて社員も仕事を楽しんでいるという側面もあるのではないかとのことでした。社長が増収増益しなければならないというプレッシャーと緊張感の中で仕事をしていたら、当然部下にもそれは伝わりますよね。仕事を楽しむという要素は、長期的な視野で見た際に、パフォーマンスに直結する非常に大切な要素だと思います。
また、「何とかなる」が口癖で、今後も年輪経営を続けても何とかなるだろう、というお考えのようです。「何とかなる」は幸せの因子でもありますし、お話の内容や口調からもとても幸せそうな雰囲気が滲み出ていました。
ということで、このように非常に勉強になった講演でした。
あまりにも素晴らしすぎて、かなり個性的な経営スタイルなので、全ての企業がマネできるわけではないですし、これが答えというわけでもないですが、伊那食品工業様のように、社員を幸せにしたいと考え、実践する企業が一社でも多く増えて欲しいという想いを改めて強くした一日となりました。